セイメイと聞いて、暫し考えた後一番に思い浮かぶのは、やはり安倍晴明あたりが最も多いのではないでしょうか。
安倍晴明は、平安時代中期の陰陽師です。陰陽師というと、何やら妖しげな占術師といったイメージを持つかもしれません。或いは秘めたパワーを持つ者といったイメージでしょうか。
しかしそれは多分、今の時代に漫画とかゲームとかで作られたイメージでしょう。またフィギュア・スケーターの羽生結弦選手が安倍晴明をモチーフにした演技で金メダルを獲得したことで、幻想的なイメージが出来上がってしまったのかも知れません。
しかし、当時の陰陽師というのは律令制における歴とした官職の一つです。中務省に属した、占い・天文・時・暦の編纂を受け持つ陰陽寮という機関があって、陰陽師というのは、その陰陽寮に勤めた役人たちの役職のことです。
安倍晴明自身も決して怪しい人間ではなく、官位は従四位下で、播磨守を肩書に持つ立派な貴族なのですが、ここで述べたいセイメイは、その安倍晴明のことではないので、これ以上の説明はここではやめておきます。
これから解説していくのは、二十四節気の一つであるところの清明についてです。
目次
万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり(暦便覧)
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清明は二十四節気の中の第五節気です。狭義的には太陽の黄経が 15°に達した瞬間のことを意味しますが、 一般的にはその日である太陽暦の4月5日頃のことを指しますし、その日から次の節気である穀雨の前日までの期間を指す場合もあります。
この頃には丁度桜の花が咲き誇り、お花見のシーズンでもあります。南の地方では燕が渡って来る頃です。雨が多い時季で、暖かくなった後に小雨が降り続いて寒くなったりもします。
そんなことから、清明は清浄明潔の略とも言われていますが、いずれにせよ、その頃季節的にはすがすがしい南東の風が吹き、全てのものが清らかで生き生きとすることから、清明と名付けられています。万物が若返り、清々しく明るく美しい季節です。
清明に関する風習
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現代日本においては馴染みの薄い清明ですが、本場中国では今でも特別な意味合いを持っています。中国ではこの日は清明節という祝日です。この前後も休みになって、毎年3連休となります。
この期間には祖先の墓にお参りし、草むしり等をして墓をきれいに掃除するという習慣があることから、掃墓節とも呼ばれます。そのためか、日本でいえばお盆に相当する日と、他の解説ではよく目にしますが、その比較は妥当ではないと思います。
なぜならば、お盆に墓参りをするのは宗教的意味合いが強いですが、清明節に墓参りするのは、気象上の問題からだからです。即ち、清明節が過ぎると雨がよく降る時期となるので、晴れやかな日には、先祖の墓を綺麗に整えておこうという考えなのです。
また一年で最も気候が穏やかであるため、郊外を散策して自然と触れ合うことができることから、踏青節と呼ばれることもあります。花見とか、ピクニックといった類いでしょうか。
沖縄に今でも残る清明節の行事
沖縄には今日に至ってもなお、台湾や中国福建省辺りの文化習慣を色濃く残しているものが多々見受けられますが、清明節はまさにその典型です。
沖縄には18世紀に中国から伝わったといわれている清明祭という風習があります。これは中国の清明節と同様に、祖先のお墓にお参りして掃除をし、親類一同が墓前に集まり、餅、豚肉料理、お菓子、果物などを先祖に供えた後、皆で食事をします。
雰囲気としては、墓参りとピクニックを兼ね揃えたようなものですから、中国の清明節とよく似ていると言える訳です。
特に首里地方では御清明と呼ばれていて、お盆やお正月には帰らなくても、清明祭や御清明に帰省する人は多いといわれている程、沖縄ではいまだ重大行事の一つなのです。
おわりに
平安時代の有名な陰陽師の姓名は安倍晴明。その声名たる性命は盛名を馳せます。しかし私はここで声明します。私がここで言いたいセイメイとは、生命が躍動する春先の節気の清明であることを。